和声と旋律、音の重なり方 — harmony・melody・texture
harmony(和声)は複数の音が同時に重なって生まれる響きと、その重なり方を扱う分野、melody(旋律)は音が時間の中で連なって作る線です。texture(テクスチャ)は、複数の音の線が同時に鳴るときの重なり方の性質を指します。
テクスチャの分類
monophony(モノフォニー)は単一の旋律線だけの音楽、homophony(ホモフォニー)は主旋律と和声的な伴奏に役割が分かれた音楽、polyphony(ポリフォニー)は複数の独立した旋律線が同時に進む音楽、heterophony(ヘテロフォニー)は同じ旋律を複数の演奏者がわずかに異なる形で同時に奏する状態です。
配置と進行
voicing(ヴォイシング)は和音の構成音の配置、voice leading(声部進行)は各声部が次の和音へどう移るかという道筋です。passing tone(経過音)は、2つの和声音のあいだを順次進行でつなぐ非和声音です。
調和、和声
複数のパートが垂直に重なった際の美しさ。音楽に奥行きと広がりをもたらします。
Harmony(和声)は複数の音が同時に重なって生まれる響き、およびその重なり方を扱う音楽理論の分野を指します。
melody との違い
時間軸に沿って音が横に並ぶ melody(旋律)に対して、harmony は同時に鳴る音の縦の重なりを扱います。西洋音楽理論では3度を積み重ねてできる和音(chord)を基本単位とし、それらがどう連結・進行するかを扱う体系として発展してきました。
音楽の主旋律
最も人の心に残る、水平的な音の連なり。音楽の「歌」そのものです。
旋律は、音が時間の中で連なって作る線です。音楽の要素の中で最も記憶に残りやすい部分です。
何が旋律を成立させるのか
音が並んでいるだけでは旋律になりません。まとまりとして認識されるには、区切り(フレーズ)があり、向かう先があり、頂点があるという構造が必要です。上がって下がる、あるいは特定の音へ向かって収まるという形が、旋律を一つの単位として聞かせます。この点で旋律は、音の羅列ではなく形を持った線です。
歌えるかどうか
旋律の多くは、人が歌える範囲に収まっています。音域が広すぎず、跳躍が極端でなく、息が続く長さで区切られていることが、歌える旋律の条件です。器楽曲でも、旋律を声で歌ってみることでフレーズの区切りや息の位置が分かります。ただし20世紀以降の作品では、意図的に歌えない旋律が書かれることもあります。
他の要素との関係
旋律は水平方向の連なり、和声は垂直方向の重なりです。両者は独立していません。旋律のどの音が和声のどの音にあたるかによって、その音の意味が変わります。同じ旋律に別の和声を付けると、性格が変わります。旋律だけを取り出して考えることには限界があります。
語源
ギリシャ語の melos(歌、旋律)と ōidē(歌うこと)から成る melōidia に由来します。ōidē は ode(頌歌)、rhapsody の語根でもあります。
演奏のヒント
共通
旋律だけを歌ってみると、伴奏の中に埋もれていた音の方向性やフレーズの区切りが見えてきます。
音楽の密度、織り、質感
薄い、厚い、多声的、単声的など、響きの層の状態を指します。
Texture(テクスチャ)は複数の音のラインが同時に鳴るときの重なり方の性質、密度や独立性の度合いを指す語です。
3つの基本分類
単一の旋律線だけで構成される monophony(単旋律)、複数の独立した旋律線が同時に進行する polyphony(多声)、1つの主旋律を他の声部が和声的に支える homophony(和声的音楽)の3種類が、テクスチャを分類する際の基本的な枠組みとして用いられます。
単一の旋律のみの音楽
伴奏のない独唱や、全員が同じメロディを歌う状態。原始的で純粋な力強さがあります。
Monophony(モノフォニー、単旋律)は、単一の旋律線だけで構成される音楽組織。伴奏や和声を伴わない。ギリシャ語 monos(単一)と phone(音)から。
複数人で歌っても単旋律
モノフォニーは声部の数ではなく、和声の有無で決まる。大勢が同じ旋律を斉唱する場合も、鳴っている音の高さは常に一つ(またはオクターブ違いの同じ音)であるため、モノフォニーに分類される。中世のグレゴリオ聖歌が代表例で、独立した伴奏声部を持たない。
対義語との関係
複数の独立した旋律が同時に進行する状態はポリフォニー、旋律と伴奏に役割が分かれた状態はホモフォニーと呼ばれ、モノフォニーはこれらいずれとも異なる、もっとも単純な音楽組織にあたる。
主旋律と伴奏による音楽
現代のポップスや古典派音楽の主流。一つの美しいメロディを和音で支える、明快な形式です。
Homophony(ホモフォニー、和声的音楽)は、主旋律と、それを支える和声的な伴奏とに役割が分かれた音楽組織。ギリシャ語 homos(同じ)と phone(音)から。
主従関係のある声部
ポリフォニーでは各声部が対等に独立した旋律を担うのに対し、ホモフォニーでは1つの声部(多くは最高音)が旋律を担い、他の声部は和音を構成する伴奏に徹する。ポピュラー音楽の大半や、古典派以降の多くの器楽曲がこの組織を基本とする。
和声リズムの一致
ホモフォニーの一種として、すべての声部が同じリズムで動く「コラール様式」(ホモリズミック)がある。ホモフォニーはより広い概念で、伴奏声部のリズムが旋律と一致していなくても、和声的に旋律を支えていればホモフォニーに含まれる。
複数の独立した旋律が同時に進行する音楽
対位法を駆使した、複雑で豊かな響き。バッハのフーガに代表される、知的な音楽の極致です。
Polyphony(ポリフォニー、多声音楽)は、複数の独立した旋律線が同時に進行する音楽組織。ギリシャ語 polys(多くの)と phone(音)から。
声部の対等性
ポリフォニーでは、各声部がそれぞれ旋律として意味を持ち、単独で歌っても成立する程度の独立性を持つ。フーガはポリフォニーの代表的な形式で、複数の声部が同じ主題を時間差で模倣しながら、互いに独立した動きを保つ。
和声との両立
声部が独立していることと、全体として和声的に響くこととは矛盾しない。バロック期以降の多くのポリフォニー作品は、対位法の規則によって声部の独立性を保ちながら、同時に和声の枠組みの中に収まるよう書かれている。
♪Heterophonyヘテロフォニー
ギリシャ語/英語
一つの旋律が少しずつズレて重なる音楽
アジアの伝統音楽などに多く見られる、自然な揺らぎ。計算された和声とは異なる、有機的な美しさです。
Heterophony(ヘテロフォニー)は、本来同じ旋律を演奏しているはずの複数の声部が、装飾やタイミングのわずかな違いによって同時にずれて響く音楽組織。ギリシャ語 heteros(異なる)と phone(音)から。
ポリフォニーとの違い
ポリフォニーの各声部があらかじめ異なる旋律として設計されているのに対し、ヘテロフォニーは元々同じ一つの旋律から出発し、演奏する人・楽器がそれぞれ独自の装飾や間の取り方を加えることで結果的に生じるずれである。作曲時にあらかじめ複数の声部が書き分けられているとは限らない。
見られる音楽の例
インドネシアのガムラン合奏や、多くの民俗音楽の合奏で、同じ旋律を異なる楽器や声が少しずつ異なる装飾を加えながら同時に奏する場合に見られる組織で、西洋の五線譜による記譜法では捉えにくい性質を持つ。
和音の音の配置
同じ和音でも、構成音をどの高さにどう配置するかで響きが変わります。音を密集させれば厚く、広く開けば澄んだ響きになります。低音域で3度を狭く重ねると濁りやすいなど、配置には実践的な原則があります。
同じ和音でも、構成音をどの高さにどう配置するかで響きが変わります。この配置のことをヴォイシングと呼びます。
密集と開離
構成音を狭い範囲に詰めた配置を密集配置、広く開いた配置を開離配置と呼びます。密集させれば厚く塊のように、広く開けば澄んで見通しの良い響きになります。同じ4つの音でも、この違いだけで印象が変わります。
低音域で3度を狭く重ねない
低い音域では倍音の間隔が詰まって聞こえるため、そこに3度を狭く重ねると濁ります。実際の書法では、低音域は広く(オクターブや5度)、高音域へ行くほど狭く配置するのが原則です。これは自然倍音列の並び方に対応しており、経験則ではなく物理に基づいた原則です。
最高音が旋律になる
和音の中で最も高い音は、聴き手に旋律として聞こえます。したがって、和音を連ねるときに最高音がどう動くかが、そのまま旋律線になります。和声を選ぶだけでなく、上声部の動きを設計することが必要です。
楽器編成での意味
オーケストラでは、同じ和音を各楽器にどう割り振るかがヴォイシングにあたります。どの楽器がどの音を担当し、どの音域を使うかで、響きの色が決まります。和声の理論だけでは決まらない部分であり、編曲の中心的な作業になります。
演奏のヒント
オーケストラ全般
同じ旋律を別の楽器へ受け渡す際は、音域と音色の違いに応じて周囲の伴奏の厚みも調整すると、受け渡しが唐突にならず、色の変化として聞こえます。
この指示が使われる曲
ラヴェル「ボレロ」
2つの主題を繰り返しながら、フルート・クラリネット・サクソフォーンなど毎回異なる楽器の組み合わせに担当を移すことで、和声はほとんど変えずに色彩だけで変化を作った作品です。
各声部の音のつながり方
和音を構成する各声部が、なめらかかつ論理的に次の和音へ移る道筋。
Voice leading(声部進行)は、和音を構成する各声部が、ある和音から次の和音へどのようにつながっていくかという道筋を指す。
和音の「縦」と声部の「横」
和音そのものは瞬間ごとの音の重なり(縦の関係)を示すが、Voice leadingはその和音を構成する一つ一つの声部が時間の中でどう動くか(横の関係)に注目する考え方である。良い声部進行では、各声部ができるだけ滑らかに、無理のない音程で次の音へ移動する。
対位法や合唱編曲との関わり
声部同士が同じ動きで並行して跳躍することを避けたり、不必要に大きな跳躍を避けたりといった原則は、対位法の訓練や合唱・合奏のための編曲において、聴きやすく歌いやすい響きを作るための基礎となっている。
経過音
和音に含まれない音のうち、2つの和声音のあいだを順次進行でつなぐもの。ドからミへ動く途中のレがこれにあたります。単独では不協和ですが、通り過ぎる音として自然に聞こえ、旋律をなめらかにします。
経過音は、和音に含まれない音のうち、2つの和声音のあいだを順次進行でつなぐものです。ドからミへ動く途中のレがこれにあたります。
不協和だが自然に聞こえる
経過音はその瞬間の和音に属さないため、理屈の上では不協和です。しかし前後が順次進行でつながっており、通り過ぎる音として扱われるため、耳には自然に聞こえます。旋律をなめらかにする役割を持ち、和声を変えずに動きを作れます。
他の非和声音との違い
非和声音にはいくつかの型があります。経過音は2つの和声音のあいだを通過するもの、刺繍音(補助音)は和声音から離れてすぐ同じ音へ戻るもの、掛留音は前の和音の音を保持して次の和音でぶつけ、その後解決するものです。倚音は跳躍して入り、順次進行で解決します。どの型かは、入り方と出方の組み合わせで判別できます。
演奏上の扱い
経過音は通過する音なので、そこで留まると和声が濁って聞こえます。前後の和声音へ向かう途中として軽く扱うのが基本です。逆に掛留音や倚音は、不協和であること自体が表現の内容なので、そこを目立たせて解決へ向かわせます。同じ非和声音でも扱いが逆になるため、型の判別が演奏の判断に直結します。
演奏のヒント
声楽・合唱
経過音は通過点なので、他の声部より少し軽く発音すると、和声の骨格が濁らずに聞こえます。
この指示が使われる曲
バッハの371のコラール(4声体)
経過音をはじめとする非和声音の扱いが整理された形で見られる作品群で、和声学の教材として広く使われています。