前奏曲・練習曲・幻想曲 — prelude・etude・toccata
prelude(前奏曲)は、もともと他の曲や組曲の導入として演奏された曲で、19世紀以降は独立した小品としても書かれました。etude(練習曲)とイタリア語の esercizio は、特定の演奏技術の習得を主な目的として書かれた曲です。
トッカータと幻想曲
toccata(トッカータ)は toccare(触れる)に由来し、速い音型や技巧的なパッセージを特徴とする曲です。Fantasie(幻想曲)は定型に縛られない自由な形式の楽曲です。fugal は「フーガ的な」という形容詞で、フーガの技法を部分的に用いていることを示します。
♪Preludeプレリュード(前奏曲)
英語/フランス語
導入として演奏される自由な曲
特定の形式にとらわれない即興的な性格。ショパンやドビュッシーの作品が有名です。
Prelude(前奏曲)は、もともと他の曲や組曲の導入として演奏された、即興的な性格の曲。19世紀以降は、独立した性格的小品としても書かれるようになった。
「導入」から「独立した曲」へ
バロック期の前奏曲は、フーガや組曲の前に置かれ、楽器の調子や調を確かめるための即興に由来するとされる、自由な性格を持っていた。バッハの《平均律クラヴィーア曲集》のように、前奏曲とフーガが対になる構成が広く用いられた。19世紀に入ると、ショパンの《24の前奏曲集》のように、何にも先立たれない独立した小品として前奏曲が書かれるようになり、「前奏」という原義から離れた使われ方が定着した。
即興性という共通点
導入曲であっても独立した小品であっても、前奏曲には形式にとらわれない自由な性格、あるいは即興を思わせる書法がしばしば見られる。この即興性は、この語の起源である「本編の前に自由に弾く」という慣習の名残と考えられる。
特定の技術を習得するための曲
単なる練習台ではなく、リストやショパンのように、高度な芸術性と技巧が融合した「演奏会用」も。
Etude(練習曲)は、特定の演奏技術(オクターブ、アルペジオ、トリルなど)の習得や向上を主な目的として書かれた曲。フランス語で「研究、勉強」を意味する。
技術訓練から演奏会用の曲へ
古くから練習曲は教育目的で書かれてきたが、ショパンやリストらは、特定の技術的課題を扱いながらも、それ自体が演奏会で聴かせるに値する音楽的な内容を持つ練習曲を書いた。このため「練習曲」という呼び名は、技術訓練用の教材と、音楽的完成度の高い演奏会用作品の両方を含む、幅の広い語になっている。
課題の一貫性
一つの練習曲は通常、曲を通じて同じ種類の技術的課題(例えば終始オクターブで旋律を弾き続ける、など)に取り組み続ける構成をとる。この一貫性が、様々な技術を扱う他の性格的小品と練習曲とを区別する目安になる。
Esercizio(エセルチツィオ)は「練習、訓練」。特定の技術を集中的に鍛えるために書かれた短い曲を指します。
練習曲と演奏会用練習曲
本来は技術習得のための教材で、音楽的な魅力より訓練の効率が優先されます。しかし19世紀になると、ショパンやリストが技術的課題と音楽的価値を両立させた作品を書き、練習曲が演奏会の演目になりました。同じ「練習曲」でも、ツェルニーとショパンでは目的がまったく異なります。
課題を特定してから弾く
練習曲は、一曲につき一つの技術的課題を扱うのが原則です。まずその課題が何かを特定してください。跳躍なのか、指のくぐりなのか、両手の独立なのか。課題が分かれば、どこを重点的にさらうべきかが決まります。ただ通して弾くだけでは、練習曲を弾く意味が半減します。
演奏のヒント
ピアノ
テンポを上げる前に、その課題が完全に解決しているか確認します。速度は最後です。
共通
練習曲で身につけた技術を、実際の曲のどこで使うかを結びつけると定着します。
この指示が使われる曲
ショパン 練習曲集 作品10・25
技術的課題と音楽的価値を両立させた、この分野の転換点です。
スカルラッティ ソナタ集
初版の題名が Essercizi(練習曲集)でした。
即興的で技巧的な器楽曲
「触れる(toccare)」が語源。鍵盤を叩く指の動きが強調され、目が眩むような速いパッセージが特徴です。
Toccata(トッカータ)は、速い音型や技巧的なパッセージを特徴とする、即興的な性格の鍵盤楽器(またはリュートなど)のための曲。イタリア語 toccare(触れる)に由来する。
「触れる」という語源が示すもの
楽器に「触れて」その響きや機構を確かめるような、自由で技巧的な性格を持つ曲であることを、語源が示している。和声的な支えの薄い速いパッセージ、装飾的な走句、対照的なテンポの部分の連続など、即興演奏に近い自由さを楽譜上に定着させた書法が特徴とされる。
フーガとの組み合わせ
バロック期のオルガン曲には、自由で技巧的なトッカータの後に、規則正しい対位法で書かれたフーガが続く構成のものが多く見られ、両者の対照的な性格を組み合わせる書き方が広く用いられた。
Fantasie(幻想曲)は、定型に縛られない自由な形式の楽曲。ラテン語 phantasia(想像、幻想)に由来し、着想の自由さそのものが形式になっています。
「形式がない」という形式
ソナタ形式やロンド形式のような定型を持たず、楽想の展開が作曲家の裁量に委ねられます。ただし無秩序ではなく、多くの場合、対比する複数の性格が並置され、それらが有機的に関連づけられています。演奏では、どこで性格が切り替わるかを見極め、その対比を明確にすることが構造を伝える手段になります。
古い時代の幻想曲
ルネサンスやバロックの幻想曲には、模倣を中心とした対位法的なものと、即興的な性格のものの両方があります。即興的な作品では、テンポの揺れや間の取り方に演奏者の判断が大きく反映されます。
演奏のヒント
ピアノ
性格の切り替わりで音色を変えます。同じタッチで通すと構造が見えません。
共通
自由な形式ほど、演奏者が構造を決める必要があります。区切りに印を付けてから練習します。
この指示が使われる曲
モーツァルト 幻想曲 ニ短調 K.397
性格の異なる部分が並置され、対比が構造を作ります。
シューベルト「さすらい人幻想曲」
4部が切れ目なく続き、共通の動機で結ばれます。
Fugal は「フーガ的な」という形容詞。フーガそのものではなく、フーガの技法を部分的に用いていることを示します。
フーガとフーガ的の違い
フーガは形式であり、主題の提示と応答、展開という一連の構造を持ちます。一方 fugal は、その技法の一部が使われていることを指す言葉です。たとえばソナタ形式の展開部で主題が声部間を追いかける箇所は fugal ですが、フーガではありません。楽曲分析でこの語が現れたときは、「フーガの手法を借りている」と読むのが正確です。
演奏上の扱い
fugal な箇所では、フーガと同じ原則が適用されます。つまり、いま主題がどの声部にあるかを聴き手に伝えることが最優先になります。主題を担当する声部をわずかに前に出し、他を控える。この処理をしないと、複数の線が混ざって和音の連続に聞こえてしまいます。
演奏のヒント
合奏
フーガ的な書法が始まる箇所を見つけたら、主題を持つパートを意識的に前に出す、フーガの演奏と同じ配慮をします。
この指示が使われる曲
モーツァルト 交響曲第41番「ジュピター」第4楽章
ソナタ形式の中で対位法的な書法が徹底されています。