悲しみと痛み — Dolente・Mesto・Triste
dolente(ドレンテ)は dolore(痛み、苦しみ)から派生した語で「痛みを伴って、悲しげに」。con dolore と addolorato も同じ dolore を語根に持ちます。
悲しみを表す語
mesto は静かに沈んだ悲しみを指します。triste(フランス語・イタリア語)と con tristezza はラテン語 tristis(悲しい)、con afflizione は affligere(打ちのめす)に由来します。ドイツ語の niederschlagend は nieder(下へ)と schlagen(打つ)から成る「打ちひしがれて」です。
絶望・葬送・悲愴
disperato(絶望した)は「希望を失った」、lugubre はラテン語 lugere(喪に服す)に由来する「葬送の、陰気な」、patetico はギリシャ語 pathos に由来する「悲愴な」です。
悲しい、痛ましい、嘆きを込めて
dolore(痛み)から。「痛みを伴って、悲しげに」。
Dolente は「痛みを伴って、悲しげに」。dolore(痛み、苦しみ)から派生した語です。
痛みとしての悲しみ
dolore は身体的な痛みも精神的な苦痛も指す語です。したがって dolente が示す悲しみには、痛みという要素が含まれます。mesto の静かな沈み込みや malinconico の晴れない状態とは違い、こちらは苦痛が現在進行している状態です。英語の doleful、フランス語の douleur も同じ語根です。
con dolore との関係
名詞形 dolore を使った con dolore も同じ内容です。addolorato(苦しめられて)という形も現れます。いずれも同じ語根から派生した語形です。
嘆き悲しんで、苦しげに
「痛みをもって、苦しげに」。dolente と同じ内容。
Con dolore は「痛みをもって、苦しげに」。dolore は身体的な痛みも精神的な苦痛も指す語です。
dolente との関係
形容詞形 dolente と指示内容は同じです。悲しみの中に痛みという要素が含まれる点が、mesto や malinconico との違いになります。詳しい説明は dolente のページにあります。
悲しみでいっぱいに
addolorare(苦しめる)の過去分詞。「悲しみに満ちて」。
Addolorato は「悲しみに満ちて」。dolore(痛み、苦しみ)を語根に持ち、深い悲痛を求めます。
語形の関係
dolore(痛み)から動詞 addolorare(苦しめる)が作られ、その過去分詞が addolorato です。したがって原義は「苦しめられた」で、外から与えられた苦痛を受けている状態を指します。同じ語根から dolente(痛みを伴って)、doloroso(苦しげに)、con dolore(痛みをもって)といった語形が生まれています。
過去分詞であること
過去分詞であるため、この語は苦しむ過程ではなく、苦しめられた状態を指します。すでに傷を負っている状態であり、その重みが響きに現れることが求められます。低音を厚く扱い、フレーズが上へ向かわない扱いが語に合います。
演奏上の要点
溜め息のような下降音型が書かれていることが多く、それを生かすことがこの指示に応える方法です。フレーズの後半で押さずに抜けていく処理になります。ただし支えが失われると、悲痛ではなく弛緩になります。
演奏のヒント
声楽・弦楽器
下降する溜め息の音型では、頂点の音を強く突かず、そこから力を抜きながら下ることで、外から押しつけられた重さが表現できます。
この指示が使われる曲
ペルゴレージ「スターバト・マーテル」
冒頭の歌詞 Stabat mater dolorosa(悲しみの聖母が立っていた)の dolorosa は、addolorato と同じ dolore を語根に持つ語です。
Mesto は「悲しい、沈んだ」。劇的な嘆きではなく、静かに沈んでいる悲しみを指します。
外へ出さない悲しみ
lamentoso が嘆きを声に出す方向にあるのに対して、mesto は内に沈んだ状態を指します。したがって、この指示のある箇所で表現を大きくすると、語の方向から外れます。抑えたまま、しかし空虚にならないという扱いが求められます。
関連する語形
mestamente(悲しげに)、mestizia(悲しみ)という語形もあり、楽譜では con mestizia として現れることもあります。いずれも同じ語根です。
Triste は「悲しい」。フランス語およびイタリア語で用いられ、ラテン語 tristis(悲しい、陰気な)に由来する。
tristis の語族
英語には直接の同語源の日常語はないが、tristesse(悲しみ)という名詞形がフランス語にあり、感情のジャンルとして「悲しみ」そのものを指す最も基本的な語の一つになっている。
♪Con tristezzaコン・トリステッツァ
イタリア語
Con tristezza は「悲しみを伴って」。tristezza はラテン語 tristitia(悲しみ)、形容詞 tristis(悲しい)に由来する名詞。
静かな悲しみ
tristezza が指す悲しみは、lamentoso のような嘆きの表出や、patetico のような悲劇性の強調とは異なり、より静かで内向きな沈んだ心情に近い。フランス語 triste(悲しい)も同じラテン語根から。
♪Con afflizioneコン・アッフリツィオーネ
イタリア語
Con afflizione は「苦しみを持って、悲痛に」。afflizione はラテン語 afflictio、動詞 affligere(ad+fligere「打ちのめす」)に由来する。
「打ちのめされる」が語の芯
affligere は文字通り「何かに打ちつける、打ちのめす」という動詞で、そこから精神的に打ちのめされた苦痛の状態を指す afflizione が生まれた。英語の affliction も同じ語根。tristezza が静かな悲しみであるのに対し、afflizione はより強い苦悩・苦痛を伴う。
絶望した、自暴自棄の
「絶望して」。原義は「希望を失った」。
Disperato は「絶望した」。ラテン語の sperare(希望する)に否定の接頭辞が付いた形で、「希望を失った」が原義です。
希望の欠如という状態
語源が示すのは、悲しみでも怒りでもなく、行き先がないという状態です。英語の desperate、despair も同じ語源です。したがってこの指示は、感情の激しさだけでなく、その激しさに出口がないことを含んでいます。強く弾いても解決へ向かわない、という質が求められます。
静と動の両方に現れる
絶望は、激しい爆発としても、力を失った静けさとしても現れます。この語が付いた箇所がどちらなのかは、音量記号や音型から判断します。fortissimo に disperato があれば出口のない激しさ、pianissimo にあれば力尽きた状態です。語自体は方向を指定していません。
♪Niederschlagendニーダーシュラーゲント
ドイツ語
意気消沈して、打ちひしがれて
ドイツ語で「打ちひしがれて、意気消沈して」。
Niederschlagend はドイツ語で「意気消沈して」。nieder(下へ)と schlagen(打つ)から成り、打ちひしがれた状態を指します。
「下へ打つ」という構造
niederschlagen は物理的に「打ち倒す」を意味し、そこから精神的に「落胆させる」という意味が生じました。名詞の Niederschlag は、化学の沈殿や気象の降水を指す語でもあります。いずれも「下へ落ちる」という共通の像を持っています。
演奏上の判断
打ちひしがれた状態には、力を失っていることと、下へ向かっていることの両方が含まれます。したがって、音量を落とすだけでなく、フレーズが上へ向かわない扱いが語に合います。低音を重く扱い、旋律の頂点を作らないことで、沈んだ響きになります。
指揮用語との区別
Niederschlag は指揮において腕を下へ振り下ろす動作(英語の downbeat)を指す語でもあります。楽譜の表情指示としての niederschlagend とは意味が違うため、文脈で判断する必要があります。
葬送の、悲痛な、陰気な
ラテン語 lugere(喪に服す)から。「葬送のように、陰気に」。
Lugubre は「葬送の、悲痛な、陰気な」。ラテン語 lugubris、動詞 lugere(嘆き悲しむ、喪に服す)に由来する。
「喪に服す」が語の芯
lugere は文字通り死者を悼み喪に服す行為を指す動詞で、そこから「喪服のような重苦しさ」を表す形容詞 lugubris が生まれた。フランス語 lugubre もそのまま同じラテン語根を継承しており、暗く重々しい葬送的な雰囲気を表す点で共通する。
悲劇的な、哀れを誘う
ギリシャ語 pathos から。「悲愴に、感情を揺さぶるように」。
Patetico は「悲愴な、感情を揺さぶる」。ギリシャ語の pathos に由来し、原義は「受けること、経験すること」です。
pathos という語
ギリシャ語の paskhein(受ける、被る)から派生した pathos に由来します。原義は能動的に何かをすることではなく、外から受ける経験や苦しみです。英語の pathetic、sympathy(ともに受ける)、passion も同じ語根に連なります。したがってこの語が指すのは、自ら作り出す感情ではなく、襲ってくるものに耐えている状態です。
ベートーヴェンの《悲愴》
ピアノソナタ第8番 ハ短調 作品13 は、出版時に《Grande Sonate pathétique》という題が付されています。この題は作曲者自身が認めたものとして伝えられています。チャイコフスキーの交響曲第6番も《Pathétique》の副題で知られています。いずれも、悲しみというより深い苦悩と激情を伴う作品です。
演奏上の判断
「受けている」という語源を踏まえると、この指示は感情を誇張して見せることとは違います。抑えきれずに溢れているように聞こえるためには、枠が保たれている必要があります。テンポやリズムが崩れると、耐えている状態ではなく制御を失った状態になります。
演奏のヒント
共通
大げさに感情を作るのではなく、フレーズの緊張と弛緩をはっきり作ることで、内側から込み上げるような表現になります。
この指示が使われる曲
ベートーヴェン ピアノソナタ第8番「悲愴」
原題 Grande Sonate Pathétique。patetico な性格がそのまま曲名になっています。