歌う・語る・劇的に — Drammatico・Cantabile・Parlante
cantabile(カンタービレ)は cantare(歌う)から派生した語で「歌うように」。cantando は「歌いながら」の形で、同じ内容の指示です。lirico(叙情的な)は竪琴を指すギリシャ語 lyra に由来します。
語るように
parlante(語るように)は parlare(話す)の現在分詞、declamando(朗読するように)は declamare(朗読する)の「〜しながら」の形で、旋律を言葉のように扱うことを求めます。
劇的に・身振りで
drammatico(劇的に)はギリシャ語 drama(行為、劇)に由来し、gesticulante(身振りたっぷりに)は gesto(身振り)を語根に持ちます。
Drammatico は「劇的に」。ギリシャ語の drama(行為、劇)に由来します。
語源が示すもの
ギリシャ語の dran(行う)を語根とし、drama は「行われること」を意味します。舞台上で出来事が起こることが原義です。したがってこの指示が求めるのは、感情の強さそのものよりも、何かが起こっているという感覚です。
対比が要点になる
劇的であるためには、変化の幅が必要です。強い箇所だけを強くしても劇的にはならず、弱い箇所を十分に弱くすることで対比が生まれます。したがってこの指示のある楽曲では、最も静かな箇所の扱いが劇的な効果を決めます。
歌うように、表情豊かに
cantare(歌う)から。「歌うように」。
Cantabile は cantare(歌う)から派生した語で、「歌うことのできる」が原義。楽器に、声のように振る舞うことを求める指示です。
「歌う」とは具体的に何か
抽象的に聞こえる指示ですが、実際にやるべきことははっきりしています。第一にブレスです。歌手は必ず息を吸う場所があり、そこがフレーズの切れ目になります。楽器でも同じ場所を決めると、旋律に呼吸が生まれます。第二に、一つのフレーズには必ず頂点があります。どの音がいちばん高い場所なのかを決め、そこへ向かって自然に増していく。この二つを決めるだけで、演奏は目に見えて変わります。
伴奏との関係
cantabile と書かれたパートを歌わせるには、それ以外のパートが伴奏に徹する必要があります。ピアノなら、旋律を弾く手と伴奏の手で音量差をはっきりつけること。アンサンブルなら、旋律以外が一段引くこと。旋律側の努力だけでは cantabile にならず、まわりが引いてはじめて浮かび上がります。
演奏のヒント
ピアノ
旋律の指だけ深く、伴奏の指は浅く。同じ手で両方を弾く場合は、手の重心を旋律側へ寄せます。
弦楽器
ビブラートを音符ごとに切らず、フレーズを通してかけ続けると、声に近い持続感が出ます。
管楽器
すでに息で歌っているので、あとは音量の設計です。フレーズの頂点を決め、そこへ向けて息を配分します。
この指示が使われる曲
ベートーヴェン ピアノソナタ第8番「悲愴」第2楽章
Adagio cantabile と指定されています。
チャイコフスキー 弦楽四重奏曲第1番 第2楽章「アンダンテ・カンタービレ」
「アンダンテ・カンタービレ」の名で知られる楽章です。
Cantando は「歌いながら」。cantare(歌う)のジェルンディオ(動名詞)で、cantabile と同じ内容の指示です。
ジェルンディオであること
cantabile は「歌うことができる、歌うように」という形容詞、cantando は「歌いながら」というジェルンディオです。指示内容の違いはありません。同じ語根から canto(歌)、cantata(歌われるもの)、canzone(歌曲)が派生しています。
器楽で歌うこと
器楽曲にこの指示がある場合、旋律を声のように扱うことが求められます。具体的には、フレーズを息の長さで区切る、音と音をつなぐ、旋律の頂点へ向かう方向を作る、という扱いです。声は息が続く範囲でしか歌えないため、その制約を意識することが器楽での「歌う」につながります。
parlante との対
parlante(語るように)が反対方向の指示です。歌は音の長さと高さが旋律線を作り、それ自体が形を持ちます。語りでは言葉の意味に応じて強弱と間が変わります。同じ旋律をどちらとして扱うかで、演奏が変わります。
演奏のヒント
器楽全般
実際に声に出してその旋律を歌ってみると、どこで息が続かなくなるかが分かります。その位置がそのままフレーズの区切りの目安になります。
Lirico は「叙情的な」。ギリシャ語 lyra(竪琴)に由来し、古代ギリシャで竪琴の伴奏によって歌われた詩を「叙情詩」と呼んだことに遡る。
楽器の名前が詩のジャンル名になった
竪琴の伴奏で歌われる個人的な感情を歌う詩を指した語が、英語 lyric、イタリア語 lirico として受け継がれ、現在では楽器の種類を離れて「歌うような、感情に満ちた旋律的な性格」全般を指す言葉になっている。
語るように、話すように
parlare(話す)の現在分詞。「語るように」。
Parlante は「語るように」。parlare(話す)の現在分詞で、旋律を歌としてではなく言葉として扱うことを求めます。
歌うことと語ることの違い
歌では音の長さと高さが旋律線を作り、それ自体が形を持ちます。語りでは、言葉の意味に応じて強弱と間が変わり、拍は均等になりません。この指示は後者を求めます。したがって、拍を正確に刻むより、重要な音に重みを置き、句の区切りで間を取る扱いになります。cantabile とは反対方向の指示です。
声楽での用法
オペラでは、旋律的に歌うのではなく言葉を明瞭に伝える歌い方を指します。レチタティーヴォほど自由ではなく、拍節の枠は保ちながら、言葉の運びを優先する中間的な様式です。parlando(「〜しながら」の形)も同じ意味で使われます。
器楽での読み替え
器楽曲にこの指示がある場合、その旋律を言葉として扱うことが示唆されています。各音を音節のように独立させ、フレーズを文として区切ります。レガートでつなぐより、articolato に近い扱いになります。
演奏のヒント
声楽
歌詞をまず普通の話し言葉として朗読してみて、そのときの強弱やアクセントの位置を確認します。その通りに音を乗せると、parlante の性格が自然に出ます。
朗読するように、力強く説得して
declamare(朗読する)から。「朗読するように」。
Declamando は「朗読するように、語りかけるように」。declamare(朗読する、演説する)の「〜しながら」の形(ジェルンディオ)です。
言葉としての音楽
この指示は、旋律を歌としてではなく、語りとして扱うことを求めます。歌では音の長さと高さが旋律線を作りますが、語りでは言葉の意味に応じて強弱と間が変わります。したがって、拍を均等に刻むのではなく、重要な音に重みを置き、句の区切りで間を取るという扱いになります。
レチタティーヴォとの関係
オペラのレチタティーヴォは、まさにこの原理で書かれた部分です。器楽曲に declamando が書かれている場合、その箇所をレチタティーヴォのように扱うことが示唆されています。
♪Gesticulanteジェスティクラント
イタリア語
Gesticulante は「身振りたっぷりに」。gesto(身振り)を語根に持ち、視覚的な動きを感じさせる演奏を求めます。
語源
ラテン語の gerere(行う、運ぶ)から gestus(身振り、動作)が生まれ、そこから gesticulari(身振りをする)が派生しました。英語の gesture、gesticulate、そして register、digest も同じ gerere に連なります。
音で身振りを作る
身振りは、方向と大きさと速度を持つ動きです。音楽でこれに対応するのは、旋律の跳躍、音量の急な変化、リズムの区切り方です。滑らかに流れる音楽より、動きの区切りがはっきりした音楽のほうが身振りとして聞こえます。したがってこの指示のある箇所では、フレーズごとに性格を変え、輪郭を明確にする扱いになります。